哀愁? 滑稽? お佐津きつね

話の中の狐たち

 タイトルはこうなってしまったけれど、個人的には推していきたい狐。それが「お佐津きつね
 この狐の話は「秋吉台いろいろ話」に収録されています。きつねとなっているのは原典の表記がそうなっているので、それに合わせております。
 秋吉台——山口県の地名で、その周辺の様々な話を集めた小冊子が「秋吉台いろいろ話」になります。
 まとめられた話の種類は「昔話」「秘話」「エッチな話」「お化けの話」「ばかばかしい話」とされていて……お佐津きつねはお化けの話とエッチな話の中間ぐらい?
 個人的には「純文学」みたいな生々しさを感じます。年齢の境にいる人間の心情を狐で例えているような……
 考えた人は文学少年だったのかな。
 

哀愁? 滑稽? お佐津きつね

1.定年のおじさん狐:お佐津


 イラストだと妙に若さがあるけれど、定年になったおじさん狐です。
 仕事は狐界のお役人……と書くと真面目に聞こえますが、やっている仕事内容は人間が飼っている鶏の数と犬がいる家を数えるという窃盗の下調べみたいなもの。就職したての若者がやる仕事なのでしょう。簡単だが受け持ち範囲が広く老齢にはキツイとあります。

 なぜ彼がそんな仕事をしているかというと、下手の三重苦の所為です。

 ・化けるのが下手
 ・喋るのが下手
 ・上役を立てるのが下手

 特に化けるのが下手という化け狐には致命的な欠点があるので、犬や人間に追いかけられたりする事も。他の仕事をしようにも、不器用で出世の為に上手く上役に取り入る事が出来ない。
 反対に彼の後輩にあたる狐達は狐界の大学を出ていて化けるのも話術も達者。上手く狐社会を生きている様子が書かれております。
 生きるのに難儀しているお佐津。しかし、そうなってしまうのは正直者故。
 世渡りが下手だけど正直者なおじさん狐——それだけ聞くと清貧の朴訥なおじさんですが、このおじさん狐。ささやかな望みが生々しい。

 「若い人間の女を抱きたい

 ——この望みを20年持ち続けています。男としてのプライドや狐のプライドが捻じ曲がって生まれたコンプレックスなんだろうなぁ。家を広くするとか給金を上げるとかそんなものを捨てて、持ち続けた願望。雄狐は人間の女を抱いて一人前という価値観があり、それがお佐津の価値観を一番大きく占めているのでしょう。

 狐は定年を過ぎた年齢になると若い人間に上手く化けれなくなるらしく、そうなる前に最後の勝負と貧相ながらも人間に化けて出会った人間の美女を何とか口説き落として一晩……と、ならないのがこの話。
 見事に一杯食わされ、話が終わります。

 だけど、何故か嫌いになれない。全てをかなぐり捨てて最後の勝負を挑む……それもとても俗で個人的な勝負。なんとも人間らしい狐。
 人間らしいダメさが、とても愛しい狐です。居酒屋で一杯奢ってあげたい。

2.お隣の狐:おたね

 話中で登場する狐で唯一名前がある狐であり一杯食わせる雌狐、それが「おたね
 お佐津の隣に住んでいる狐であり、セフレという濃厚な関係を持つ狐です。
 狐は抱いているんだな、お佐津……そこが妙に生々しいリアリティ。
 彼女は人間の美女にしっかりと化けられるので、見事にお佐津を騙しました。
 正直おじさんが「ちくしょう!」と口汚く罵ってくるのを、軽く流して余裕がある対応をするのは化け狐として役者が違いますね。おたねという狐の名前が各地にあるのがわかる気がする。
 とはいえ、それだけの能力がありながらもお佐津に情念を抱いているのが、男女の妙を感じさせます。

 作者、女性と何かあったか……?

3.参考資料・使用画像生成AI

 秋吉台いろいろ話      著者:光谷清
 日本怪異妖怪事典 中国   著者:寺西政洋 監修:朝里樹

 使用生成AI : SeaArtAI

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